最先端のAI研究が武器 東大松尾研発スタートアップACESの挑戦

現在、人工知能や機械学習、深層学習(Deep Learning、DL)がホットトピックとして様々なメディアで取り上げられている。今回取り上げる株式会社ACES(エーシーズ)は、人工知能(AI)研究をリードする、東京大学松尾研究室発AIスタートアップだ。Deep Learning(編集注:コンピュータ上に人間の脳を模した仕組みを構築し、学習させることで、コンピュータに知識を獲得させる手法)を用いたAIアルゴリズムパッケージを提供するほか、企業と共同開発も行なっている。クライアントは電通をはじめとした名の知れた大企業が並ぶ。画像認識を中心としたAIアルゴリズムの力でシンプルな社会を作り上げ、ヒトが関わるあらゆる業務を自動化・効率化することで、だれもがいきいきと生きられる社会を実現しようとしている。

そんなACESは、実ははじめから現在のビジョンを持って起業したわけではなかった。田村CEOにとって大きなメンターの存在とは?ACES起業までの経緯や現在の事業、今後の展開について話を伺った。

基本概要
 代表 田村 浩一郎
 設立 2017年1月
 クライアント:株式会社テレビ東京ホールディングス, 株式会社電通, SOMPOホールディングス株式会社, JFEエンジニアリング 株式会社など

サービス (どういうことやってる会社)
①共同AI事業
プロジェクト設計からアルゴリズムの開発、導入、活用まで一気通貫で支援する。スポーツ身体動作の解析や、製造業における業務作業のデジタル最適化、損傷検知と損傷度合いの自動判定など多数の実績と経験が強み。
②アルゴリズムAPIサービス『SHARON』
ヒトの行動や感情の認識などを実現する最先端の画像認識AIの学習済みモデルをAPI(編集注:第三者が開発したアプリケーション、ソフトウェアの機能を他者でも使用可能にするもの)で提供している。検討から導入・運用まで、画像認識AIのシンプルな活用体験を目指している。


ビジョン (何を目指しているのか)
ヒューマンセンシング技術で、リアル産業の人の活動をデジタル化・最適化する

ワンポイント(サービス、ビジョンかいつまみ)
 効率性の良さを重視しながらAIアルゴリズムをパッケージ(API)として様々な業界ビジネスに提供するといったサービスを展開している。スポーツ業界では、選手の能力を最大限に引き出すことにも関わっている。AIアルゴリズムの力を用いて、「複雑・非効率・非合理・無駄」な働き方を改善し、社会の産業構造をシンプルにしていくことで、誰もがいきいきと生きられる社会を実現することがACESのミッションである。

「起業」は研究プロジェクトから偶然始まった。

――どのような流れで起業に至ったのですか?

松尾研究室の修士の学生だった2年前、個人の研究プロジェクトの一環として、漫画の自動翻訳をやろうと考えていました。当初は個人で、出版社の方々にビジネスの話を持ちかけたのですが、法人格がない状態では、出版社からの協力を得ることができませんでした。そこでプロジェクトをスムーズに行うために、私を含め6人のメンバーで会社を作ることにしました。その後、漫画の事業は交渉が難航し頓挫してしまったのですが、Deep Learningで事業を行うタイミングは今しかないと考え、せっかく集まってくれた粒ぞろいで相性の良いメンバー達と何かやりたい、との思いから、会社として動き始めました。

もともと起業ありきだったわけではなく、金融のトレーダーとして就職を考えていた時期もありました。一方で、松尾研発でPKSHA Technologyを立ち上げた上野山さんの存在は大きく、起業に対する心理的ハードルは低かったと考えています。上野山さんには私の卒業論文のメンターとして指導していただいたのですが、彼の会社が上場したことを知った際に起業のインパクトの大きさに驚き、自分も起業を選択肢として考えるきっかけとなりました。

――なぜ本郷に拠点を構えることに決めたのですか?

現在20人ほどの方に働いてもらっていますが、東大の修士や博士課程に在籍している方も多いため、彼らが研究室から通いやすい場所を選びました。私自身も博士課程の学生ですし、最先端の研究を社会実装することで、アカデミアにも産業にも価値を還元できるのは弊社の強みだと考えています。

また、日本の大学の博士課程は給料をもらうどころか授業料を払って研究をしていますし、博士取得後の受け皿が少ないためにせっかくの専門性が活かされなかったりと、海外と比べ優秀な人材が評価されにくいと感じています。社内では、必要に応じてリモートで働くことも許容して、博士課程の人が研究に注力しつつ働ける環境を提供しています。

――起業の際に失敗した点や苦労した点はありますか?

失敗談は色々とあるものの、先輩方のご助言のおかげでいまのところ致命的なものはありません。苦労した点を一つ挙げるとすれば、事業を始めた当初は実績も知名度もなく、提案のレベルも低かったため、案件獲得に苦心しました。しかし、当時四苦八苦しながらも提案レベルを上げつつ、PoCやコンペで高い技術力を示し実績と信頼を積み重ねることが少しづつできてきたおかげで、現在の成長につながっていると認識しています。

ACESの事業は大きく分けると共同研究開発事業とアルゴリズムライセンス事業の二つに分かれる。二つの事業をどのように行っているのか、詳しく話を聞いた。

――ACESではどのようなサービスを提供されていますか?

主に二つの事業形態があります。一つはAIをベースとした共同研究開発事業で、企業とともに事業を作っていくことです。例えば、株式会社電通とはデジタルスポーツに関する共同事業を行なっており、最先端の2D/3D Pose Estimation アルゴリズムをはじめとするDeep Leanring技術によって、今まで「センス」とされていたスポーツにおける身体行動をデジタル化しています。計算機科学のみならず、バイオメカニクスやスポーツ科学の知見も取り入れることで、ケガ防止や癖の分析、パフォーマンスの向上を実現しています。

もう一つは、APIをパッケージライセンスとして提供するSHARONというサービスです。例えば、視聴率を測るために、テレビに顔の検知ができたり、どこに視線が向けられているのかを知るアルゴリズムを組み込みたい業者のために、私たちのアルゴリズムを権利として販売しています。私たちがAPIを作っている理由は、今まで作ってきたパッケージ化されたアルゴリズムを利用して技術を再度作り直すという無駄を無くし、クライアント様が課題をよりシンプルに解決できるようにしたいと考えたからです。

――最新の技術を取り入れ、データに基づいて練習の内容や重さを変えることで、根性論とは別の軸でスポーツ分野が進歩しそうですね。ACESが提供している技術はどのように実社会に導入できるのですか?

分野は限定していないので応用領域はさまざまです。眠気検知の技術を例に挙げると、近年の医学的研究で瞬きの回数が落ちることは眠気の兆候になることが分かっています。そのため、Deep Learningを用いて人の瞬きの回数を認識させ、APIとして自動車に組み込むことで、運転手が眠くなってきていることを本人に知らせることができます。オフィスワークでも同じことが言えますね。面接の場面では認識系AIを面接官の横に置いておくことで、客観的指標で見ることができ、動画面接、オンライン面接などでも利用されています。これらのAPIを実社会に導入するため、私たちは医学的論文を読むこともありますし、医学部のインターン生に手伝ってもらうこともあります。他にも、工事現場で物体を検知し、位置を正確に測定できるアルゴリズムを開発しています。鉄筋コンクリートの測量ではミリ単位の精度が要求されるため、最先端のアルゴリズムをAPIとして企業に提供することで、安全にかつ正確に自動化することを可能とします。

田村浩一郎CEO

「属人的な労働を前提とした産業構造は人口減少に伴い、限界に近づいている」

――日本の高齢化社会に対してAI技術をどう利用していきたいと考えていますか?

労働人口が日本で減っていることは明確です。現在の日本の産業の多くが個々人の労働力に頼っていますが、そうした事業モデルは限界に近づいています。特にリアル産業において、人の作業や現場がウェブに接続されていません。それを解決するため、機械の眼とも呼ばれるDeepLearningによるhuman sensingなどの技術を用いて、現場のヒトの動きやモノをデジタル化することで可視化、最適化していくことが私たちの理念です。

――今後の事業展開はどのようなことを予定していますか?

私たちが現在行なっている現場のデジタル化と最適化を行なっていくと、人のパフォーマンスを定量化することができます。結果としてどこで誰が働けば良いのか、などというリソース最適化もしていけると考えています。

先程のスポーツの事例では、今まで定量化されていなかった選手の能力を定量化することで、どの選手がどのチームにフィットするかがわかるようになるでしょう。ビジネス的には、移籍市場を取れるとよいですよね。他にも、採用の際に、ある人材が5年後どう成長するかといったことを、デジタル化によって追跡できるようになるはずです。ただ、デジタル化で追跡が可能となっても、領域によっては国家資格などの雇用に関わる制約により業界を跨いだ最適化は簡単ではありません。Visionを達成するためにも今後デジタル化に加えて、最適化を行える、踏み込むべき業界・領域を探っていくつもりです。

社内のValuesは創業時からずっと立ち返るものとして続いている。

――社内のカルチャーについて教えてください。

私たちは、意思決定や評価のベースとなる価値基準として、3つのValuesを掲げています。一つ目は「Make it simple」です。Missionとして社会をシンプルにすることを掲げている以上、まずは私達がシンプルであり続け、本質的な知的生産をしていくことが重要です。二つ目は「Gain Trust」です。事業をやっていく上で、数値に現れない信用も重要です。社内外で信用に値する言動に徹することを求めています。3つ目は「Think, and Practice(知行合一)」です。これは、上野山さんからお話いただいた言葉でもあるのですが、頭と手と足を全て動かすことが大切です。多くの東大生は頭(と手)はよく動くものの、足を実際に動かせていません。例えば、自分が作ったアプリケーションが誰に利用されているのか実際に人に会いに行くとか、市場規模を見るだけでなく現場の人と組んで行動を起こすといったことが重要です。私たちは、現場から遠いと思われがちなアカデミアの人材こそ、現場で話を聞くことを大事にしています。

議論風景はまるで大学の研究室のようだ
田村浩一郎
 2019年現在、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 博士課程(松尾研究室)所属。大学当初から事業で貯めた資金で投資を行ない、金融&DLをテーマに研究し実践している。GCI講座優秀賞、DL応用講座最優秀賞、トヨタ・ドワンゴ高度人工知能人材奨学金などDLに関わる様々な賞を受賞し、数多くの企業との共同研究プロジェクトでPMを経験。2017年、「アルゴリズムで社会はもっとシンプルになる」というミッションを掲げACESを創業。
【インターン / 正社員】

・最先端AIプロダクト開発に携わるサーバーサイドエンジニア
・リアル産業のデジタル最適化を進めるDeep Learning エンジニア/リサーチャー
・リアル産業のDXを進めるプロジェクトマネージャー

ACESは、ヒトが関わるあらゆる業務を自動化・効率化し、人の働き方を最適化することで、シンプルな社会の実現を目指している会社です。壮大なミッションの実現に向けて、すでに既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めるプロジェクトがどんどん動き出しています。ACESのミッションや事業内容に共感していただける方、AIの社会実装や技術を用いた働き方改革に熱意をもった方を募集しています!

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