まるでSFー培養肉の開発で豊かな未来を創造するIntegriCulture株式会社

 大学の研究施設にオフィスを構え、研究開発を進めるベンチャー企業がある。まるで研究室訪問に来たかのような気分になる。ドアをたたくと、代表の羽生雄毅さんが迎えてくださった。IntegriCulture株式会社(インテグリカルチャー株式会社)、大量培養細胞技術の開発を通して培養肉生産の実現を目指す会社である。東京大学近くのラボカフェで培養肉について研究していた、Shojinmeat Projectという同人サークルから派生して生まれた。

 培養肉は、もととなる動物細胞を増殖させることで、人工的に生産される肉である。このテーマに取り組む企業は、世界的に見てもそう多くはない。そんな革新的な事業を率いる羽生さんに、どうやって事業が始まったのか、そして将来どんなことを実現しようとしているのか、伺った。

IntegriCulture「培養肉の開発を手がける、『細胞農業』分野のパイオニア」

基本概要 
代表 羽生 雄毅 
設立 2015年10月23日 

サービス (どういうことやってる会社)
大規模な細胞培養システム “CulNet System™”を用いて機能性物質の開発を行い、培養肉、その他の食品、化粧品等の研究開発を行う。

ビジョン (何を目指しているのか)
1 培養肉の実現を通した、畜産による環境負荷の低減
2 各人の好みに合わせた肉を家庭で培養できるようにし、豊かな食生活を実現
3 コスメや健康食品の開発、そして火星基地への培養肉プラントの設置

ワンポイント(サービス、ビジョンかいつまみ)
お肉は、日常の食生活の中にありふれたものであり、重要な部分でもある。しかし、実は家畜を育てる過程では大量の水が使用され、多くの温室効果ガスを排出している。地球の今後を考えると、肉類の大量消費を続けることは現実的ではない。そんな中、IntegriCultureでは、わずかな数の家畜の細胞を増殖させ、人工的に食べられる肉を生産する技術を開発している。これにより、畜産がもたらす大きな環境負荷を低減できると期待できる。さらに、将来は個人の自宅でそれぞれの好みに合わせた培養肉を作ることを可能にし、豊かな食生活を実現することも目指している。また、培養肉の事業に加え、「大量培養細胞技術」を活かし、コスメ等のより幅広い分野へも取り組んでいる。

SFの世界にあこがれ、自ら「ぶちあげて」始めた培養肉の研究

――会社は、Shojinmeat Projectという同人サークルからスピンオフしてできたものだと伺いました。Shojinmeat Projectで培養肉の研究が始められた経緯と、そののち会社を立ち上げることになった理由を教えてください。

 私は、もともとSFの世界観に惹かれていて、その中でたまたま培養肉の分野の研究をすることになりました。Shojinmeat Projectでの活動も、自分がぶちあげて始めました。ただ、Shojinmeat Projectはあくまで有志団体で、会社ではありません。初めは、ビジネスというお金の論理にとらわれず、色々な人が色々な理由で集まるコミュニティとしたかったんです。しかし、あるとき試薬を買うために会社の形が必要になりました。それが、IntegriCulture株式会社が生まれたきっかけです。

――もともと研究好きな方が多い中で、会社を軌道にのせていくまでには、どのような過程があったのでしょうか。

 初め、ビジネスのことはわからないことだらけでした。しかし、リバネスさんやリアルテックファンドさんからの支援をいただき、資金調達をしたり経験値を積んだりする中で、ビジネスをする方たちと会話ができるようになっていきました。現在はビジネスのバックグラウンドのある社員も参画してくれていて、会社のブランディングやマーケティングを担当してもらっています。

東京女子医科大学と早稲田大学の共同研究施設に拠点を構える

宇宙への進出もあり。でも、まずは「味と値段」が鍵

――現在、培養肉や他製品の一般化に向け、開発を進めているとのことですが、今後どんなスケジュールで事業を拡大していく予定ですか。

 まずは、2021に一部レストランで培養フォアグラの提供を始め、2023年に一般販売を行う予定です。同時に2023年には一部レストランで加工肉の販売を始め、2025年に一般販売を目指しています。同様に、ステーキに関しては2025年に一部レストランでの提供開始、2027年には一般販売開始をしたいと考えています。その他の製品に関しては、コスメはすでに試作品があり、近いうちに販売を開始したいと考えています。毛皮の開発も理論的には可能ですが、これはもう少し先になりそうです。また、宇宙に行った際、現地の限られた資源から食料等を生産する研究も、JAXAと共同して行っている最中です。宇宙空間では、物質が循環する究極のエコシステムが必要ですからね。

――培養肉という革新的な取り組みに対し、レストランや他のパートナーシップ企業からはどんな反応がありますか。

 私たちの食材をいち早く取り入れてくれるレストランは、「新しいもの好き」なところです。新しい食材そのものに興味があり、私たちの培養肉も使ってみたい、と言ってもらっています。そうでない場合はやはり、「味と値段」が基本です。できた肉がおいしいのか、値段が従来の肉と比べて高くないか、結局はそのポイントに尽きると思います。

「やったもん勝ち」の分野だからこそ、面白い

――会社はどんな雰囲気ですか。

 研究者が多いので、ラボみたいな雰囲気ですね。でも会社なので、時間管理はしっかりしていますよ。それと、「文化を増やす会社でありたい」という思いがあるので、ゲームやアニメなどカジュアルな雑談もとびかっていて、社員の仲は良いです。

 私は、熱意があることと、真面目であることは別だと考えています。後者はレールの上をしっかり走るけれど、前者の場合、空を飛んで進みます。今の会社には、立ち上げ期に必要な熱意のある人が多いのですが、これから事業を拡大するにあたり、真面目に着々とものごとを進めてくれる人もほしいなと思っています。

――IntegriCultureの事業に関心のある人がどんな風に関われるか、教えてください。

 培養肉生産のような「細胞農業」の領域に熱意のある人、この領域で将来やっていきたいと考えている人には、ぜひ事業に加わってもらいたいな、と思います。特に、新しい分野なので、好奇心や学ぶ姿勢のある人は大歓迎です。私たちは、海外で培養肉研究を行っているNew Harvest(※1)やGood Food Institute(※2)ともつながりがあるので、この分野に飛び込みたい人には多くのチャンスのある環境だと思います。

 現在インターンシップの体制は準備中なのですが、IntegriCultureの元の団体となっているShojinmeat Projectのほうであれば、どんなバックグラウンドの方でも活動できるので、まずはそちらで少し知識を深めてもらうのもアリです。

(※1)2004年にアメリカで設立された非営利の研究機関。動物を用いずに動物性食品を生産することを目標に、細胞農業の分野の確立を目指している。

(※2)2016年にアメリカで設立された非営利団体。動物性食品を植物や培養細胞から作られた食品に代替することを目指し、関連する研究者・企業・機関を支援する。

――最後に、メッセージをお願いします。

 一言で、『やったもん勝ち』以上。

 培養肉や細胞農業(”cellular agriculture”)の領域はまだ分野として確立され始めているという状態で、活動を初めて一年以内に政策等の意思決定側にまわっている、なんてことも実際にあります。オリジナリティも高い分野なので、誰かと競争するというよりは、とにかく自分たちなりに開拓していかないといけない領域です。

 だからこそ面白く、もっともっとこの細胞農業の世界に入ってきてくれる人が増えると嬉しいなと思っています。

羽生 雄毅
代表取締役 CEO
2010年、University of Oxford Ph.D(化学)取得。東北大学 PD研究員、東芝研究開発センターシステム技術ラボラトリーを経て、2015年10月にインテグリカルチャーを共同創業。 
【インターン】現在準備中
 
IntegriCultureのインターンシップは現在準備中だ。
ただ、培養肉生産を含む細胞農業に関心のある人は、Shojinmeat Projectへの参加が可能。研究はもちろん、社会や食文化という観点から活動へ関わることもできる。