東京都副知事も審査に参加! UTokyo Project Sprint  オンライン発表会レポ

イベント概要

 弊メディアでも2記事に分けて取り上げてきた、6週間にわたる学生向けインキュベーションプログラムUTokyo Project Sprint。その集大成とも言えるオンライン発表会が6月13日に開催された。本プロジェクトに参加した80チームの中からピッチ動画による選考を通過した8チームの発表と、豪華審査員による講評の様子をお届けする。

決勝へと進出したのは以下の8チーム。(発表順)

東大知恵袋 

 (東大生専用の匿名Q&Aサイト)

 学生同士での情報共有の機会が失われたことから、東大生向けの質問掲示板を開発。階層やタグを整理して質問を見つけやすくし、学部外聴講の学生も質問しやすい設計にした。

ONLINE KITCHEN 

 (オンライン料理教室のためのプラットフォーム

 料理教室の開催が困難な現状を打破するべく、開催から招待までを完結して行えるプラットフォームを開発。今月も多くの教室が開催されるなど、着実にユーザーを獲得している。

おうちでできる!実験・工作レシピ 

 (子供が実際に作ってあそべる実験・工作共有サイト

 前回記事でも紹介した、じっくり学べる機会の喪失に切り込むノウハウ共有サイト。特集や使う道具などによる分類で高い検索性を実現する。夏休みの宿題に向けてサービスを拡大していく。

オンアク

 (オンライン握手会を行うためのプラットフォーム

  入賞チームのため、説明などは後述。

Cross Recommender

 (分野横断的に触れたことの無い作品をおすすめするサービス

 自分の嗜好性を踏まえた新しい趣味を提案するサービスで、3名の情報系学生が精度の高いレコメンドアルゴリズムを実装。現状、漫画のレコメンドが多いが、映画や小説などにも拡充していく。

ポロロッカ

 (自作問題を投稿して他の人に解答してもらうサービス

  入賞チームのため、説明などは後述。

イラストリレー

 (描き途中のイラストを交換できるプラットフォーム

 イラストを趣味で書く人が抱える隠れた二つのニーズを拾う斬新なサービス。絵を書く上で三つの工程を一人でやる面倒くささと、他人が描いたものに途中工程から自分も参加したいという需要を、工程ごとにリレーで解決する。

Tanma!

 (学生の状況をリアルタイムで反映して授業をサポート

  入賞チームのため、説明などは後述。

決勝までとその様子

 運営はFound X Reviewや歴代のTech Crunch Battleの映像、デザイン、プレゼンに関する各種書籍・各種記事から総合的に作成した練度の高いピッチに関するアドバイスを参加者に共有し、それぞれ完成度を高めたピッチ動画をプログラム参加者は決勝をかけて提出された。、 決勝進出をかけたピッチ動画の審査基準は運営で検討の上、アイデアのモデル、技術、実績、そしてデザインに決め、激選を極めたとのことだ。

 決勝に進出したチームはサービス公開後、着実にユーザーの獲得とサービス改善策の仮説検証を重ねており、発表にとても説得力があった。審査員からは競合優位性や独自性、戦略について鋭い質問が多く出たが、発表者はチーム内で上手く分担して問題なく回答しており、サービス開発にかけた時間の長さがうかがい知れた。

審査は以下の10名により行われた。(敬称略)

(東京大学・大学院)

川原 圭博 各務 茂夫 田浦 健次朗 矢谷 浩司 山崎 俊彦

(東京都)

宮坂 学

(アマゾンウェブサービス株式会社)

櫻田 武嗣 森田 仁志

(ソニー株式会社)

杉上 雄紀 他

入賞者

 審査員はアイデアのモデル・技術・実績・デザイン・4つの項目のバランス、の5つの観点で審査し、受賞者が以下の通りに決まった。 

参加者賞 Tanma!

実績賞 ポロロッカ

アイデア賞 Tanma!

技術賞 オンアク

デザイン賞 Tanma!

バランス賞 Tanma!

入賞したチームについて、簡単にそのサービス概要とともにコメントを取り上げる。

オンアク

多くのイベントが中止や延期となる中で、アイドルの収入低下、アイドルファンの生産性低下を伴うアイドル文化の危機に対してオンライン握手会のプラットフォームを提供する。

 従来のオンラインプラットフォームでは1対多で、テキストやアイテムによる薄い繋がりが多かったが、オンアクでは短時間ながらビデオベースで密な交流を実現。既にP2P通信によるリアルタイム通信や、招待からチケット、イベント管理までの統一を実装しており、多くの参加者からSNS上で満足の声が聴かれた。今後は耳元でつぶやいているように聴こえる「耳つぶ機能」などオンラインならではの機能も実装予定。不適切な行動への対策や、握手会レポートなどの独特な文化の動画共有を検討するなど、アイドルオタクと自己紹介していたメンバーらが多方面でサービスの改善を考えているのが印象的だった。

 チーム代表の西田さん

 本アプリが現状でのアイドルの課題を解決できる大きなポテンシャルを秘めている、ということを伝えきれず悔しいです。しかし、一定の評価をいただけたことは純粋に嬉しく思います。

 今後の意気込みとして、ピッチに向けて資料探しをしている際にもたくさんのアイドルがいることが確認できました。アイドル文化の助けになればという初心を忘れずに精進していきたいです。 

ポロロッカ

 学習における交流が減る中で、自作問題を投稿・共有できるサービスを開発。学んだことや得意なことを通じて人と交流できる場、そして既に多くSNSに上がっている問題を一つに集約して、学びの集いの場として機能するサービスを目指した。

 他の人を意識できるような自動採点機能や、SNSでの問題の共有、コンテストの定期開催などの工夫が功を奏して、サービス開設から6月13日までに5.8万PV、250人のユーザーを獲得。既存の問題自作コミュニティの取り込みにも成功しているようなので、今後利用者の更なる増加が期待される。

ピッチプレゼンを担当した中澤さん

 素敵な賞を受賞できて誠に嬉しく思います。多くの方に継続的に利用していただいているのは、自信を持って紹介できるサービスを作り上げられたからだと思います。このプロジェクトに参加できて本当によかったと思っています。

 今後もこのサービスに出会えてよかったと思っていただけるよう、日々進化し続け、より多様で豊かな学びの場となるようにしていければと思います。

Tanma!

 最後の発表チームとなったTanma!は、授業のオンライン化に切り込んだ。理解度に関して、教員と学生の間で情報伝達が不十分なことに注目し、この課題をむしろ好機と捉え、教員と学生の間の新しいコミュニケーション形成を目指す。

 開発したのは、学生の理解度がリアルタイムでヒストグラムの形で共有され、教員側がその全体像を把握できる携帯アプリ。

 教員側は再読み込みなしで理解度を把握可能で、審査員の教員からも「授業ですぐにでも導入したい」などの発言が寄せられた。実際に200名を超えるユーザーテストでも73%が「また使ってみたい」と回答し、教員と学生両方のペインを解決するソリューションであることが示された。今後はより満足度を上げ、リアルな理解度を反映するために、数分操作をしていない生徒のリアクションを消す機能や、リアクションをスタンプにする機能などの実装を検討している。

 チーム代表の栗本さん

 感想としては本当にうれしい、まずはそこに尽きます。決勝に進んだプロダクトはどれも素晴らしく、その中で私たちが高く評価して頂いたことは光栄この上ないです。

 学科の授業と並行して未挑戦だったチーム開発に取り組んだこの6週間は、今までで一番大変だったと思います。しかし協力してくださった先生方や学生、そして何より大切な親友の応援が心の支えになったおかげでチームでやり遂げることができたので、今はただ感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

 私たちのプロダクトでは未解決の問題があることは事実です。そもそも取り組んでいる課題自体が難題であることも理解していますが、いろいろなアプローチで今後もチャレンジしていきたいです。

審査員の講評

 杉上 雄紀 (ソニー株式会社) 

 面白い発表がいっぱいありました。わずか6週間でここまで来たのはすごい。自分は自分起点と顧客視点と社会の重点という三つを重視しています。皆さんは自分起点で動きだしたと思いますが、顧客視点についても、ユーザーに使ってもらう良い機会なのでブラッシュアップすると良いと思います。

 櫻田 武嗣 (アマゾンウェブサービス株式会社) 

 今回クラウド環境の提供という形で協力して、心配していたのが「短期間でアイデアを出してかつAWSのサービスを使って頂くことは果たしてできるのだろうか」というところだったのですが、皆さんきちんとサービスを作っていて感心しました。サービスをドンドン運用していくと想定していない使い方、おもしろい使い方や使ってほしくない使い方も出てくるでしょうから、幅広く考えて拡充していってもらえたらと思います。

 宮坂 学 (東京都副知事)

 短期間の中でプロダクトを作り、プレゼンテーションも非常に洗練されていてレベルがとても高かった。ビジネス的な観点からコメントしますと、アイデアが体験の中から出て来ていて、世の中にライバルが多いものというよりはアイデアが尖ったものが多いと感じました。ただ一方で大きくするならその分野で圧倒的No.1にならないといけない、そのためには、ここだけは絶対に負けちゃいけないKPIは何かというのを考えるといいかなと思いました。そのKPIがライバルより1.2倍とかだとライバルが余計燃える。最低でも2倍、10倍までいくと相手が諦めて勝手にピボットしてくれます。それぞれのサービスの中で何が一番重要なのか、何ならライバルに比べてぶっちぎりにできるか、戦術的なところに落とし込んでいくとどんどんサービスも大きくなると思いました。

全体講評

 川原 圭博 (東京大学)

 教員は普段、一生懸命何ができるか考えて授業を行い、課題を出しています。しかしその課題はせいぜい理解を深めるためで、場合によっては作りたいものを自由に作ることはありますが、人が使うものを作る機会はなかなかない。今回インターネットスケールであわよくば世界中の人に使ってもらえるものを作ったのは、ほとんどの人が初めての経験だったのではないかと。これはすごいこと、20年前だったらまず無理でした。

 今回決勝で観たもの以外も、タイトルが非常にキャッチーでワクワクしています。面白かったのは「使ってみたい、確かにそのニーズがある」という、皆さんの痛いところ、かゆいところに手が届くものが多かった。何か自分にこだわりがあるものがあって、それを色んな人に届けたい、そういう思いがのっかって素敵なサービスになった。全ての分野のスぺシャリストの可能性を広げる力をもっているのが情報技術であり、それを活用したのが情報化社会。その第一歩を今回踏み出せたのは良かったです。

 大学の学びの場ということで次のステージにいくために一つ宿題があるとすると、「自分がほしい」に加えて、世の中に転がっているデータや資産、余ってるリソースをネットで活用すること。今回のサービスの中にはバーチャルなものに閉じた物、ネットに比重を置いたものが多かった。ネットの情報を提供することで、リアルな社会で人とか物の動きが変わるものがあったらよかったのかなと。新型コロナウイルスの影響で人や物の動きが変わらざるを得ない中で、やっちゃだめですよというのではなく、積極的に数字やエビデンスを出して「そんな状況だったら自分はこうしたらよいかな」と自然と思えるようなサービスが今後大事になります。そういう視点からも考えられるともっと凄いことになるのかなと思います。

主催者から参加者へのメッセージ

 一つ、運営からのメッセージ。どうか今のプロジェクトをつづけてほしい。6週間というのはサービスの良し悪しを測るには短すぎます。今の段階でプロダクトを使ってくれる人がいるなら、それは続けるべきサインです。運営はプロジェクト以後の選択肢をできるだけ多く用意しているので、できるだけ活用してください。

 二つ目は個人としてのメッセージ、どうか作るということを信じて下さい、作ることを恐れないで下さい。これから様々な課題に出逢うと思います。アイデアとは本来それだけでは価値をもたないもので、具現化して初めて価値を持つものです。今回、サービスをつくることはそれほど難しくないと感じたと思います。5、10年後になるかもしれないですが、新しい課題に出逢ったときにとりあえず作ってみようとなれば、この6週間に意味があったのではないかと思います。

プログラムの今後および密着取材に寄せて

 オンライン発表会を終えて、主催したメインパートナーの桝田さんに改めて話を聴いた。

 当初予定していたよりも多くのチームが参加し、質の高いものが出来上がった印象です。運営にあたって気にしていたのは、芽をつぶさないことです。アイデアが良いか悪いかは実際のところ、サービスを世に公開し、ユーザーに問うてみないと分からない部分が大きいです。一見需要のないと思われるものが、意外にも伸びるといったことがあります。作ろうとする思いがあれば質問対応などの形で応えてきました。

 自分が過去にビジコンを開催していたので、運営自体は「初めてで大変だった」という訳ではなかったです。一方で、最終ピッチを提出してくれたのは80チーム中30チーム。運営としては全チーム続けてほしかった。進捗についてはチームアシスタントという制度を設けて、全てのチームに質問対応し、現状共有する場も設けました。しかしその場を使って話せているのは上手く行ってるところばかりで、上手く行ってないとそもそもZoomに来ないという構造上の難しさがありました。何もせずにやめてしまうチームもかなりあって、それらを救えきれなかったのは失敗だと感じています。

 今後は今のところ、成功したチームと失敗したチームにアンケートを行い、同じような試みをする方にとってに参考になるように、失敗した原因を公開する予定です。次回の開催は今のところ検討していません。初回だからこそ利用してもらえたプログラムである部分と、自分の置かれてる環境もあって開催できたからです。

今回のプログラムは素晴らしい運営のメンバーと、サポートで入ってくれた社会人がいたから実現できたと素直に思います。サーバー周りや質問対応など、到底自分一人で成し遂げられるものではありませんでした。一方で、ウェブ開発もビジコンの開催経験もあった自分にしか実現できなかったことだとも思います。

 サービスを作りたいという人が増えていると思います。一方でエンジニアというと、アイデアを実現する便利屋として語られることがあります。プロジェクトで指示を出す側が、開発で実際に何が作れるか分かっていなかったら、開発する側にとってとんちんかんな指示になることがあります。自分もかつて作れない身として、恥ずかしながら、そのような経験がありました。

 起業のプロセスは2つあると思っていて、1つはアマゾンなど自分の経験や課題感から成功確率が高いものを作ったもの。もう1つがとりあえず作ってみて、それが意外と伸びて、事業化しないといけなかったというもの。Facebookやグノシーなどがそうだと思いますが、日本では割合として少ないように感じます。後者のような食いついてから考えるというアプローチがもっと日本で増えてほしいなと強く思います。